TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

てんやわんや

1950年、松竹大船、獅子文六原作、斉藤良輔+荒田正男脚本、渋谷実監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

病気で三ケ月も寝込んでいた犬丸順吉(佐野周二)が、久々に勤めている出版社「綜合日本」に出向いたところ、会社は流行のストライキとやらをやっており、社内を荒し回っている社員たちは社長の鬼丸玄三(志村喬)の居場所を捜していた。

学生時代から鬼丸に面倒を見てもらっていた「ドッグ」こと犬丸は、「社長の腰ぎんちゃく」と陰口を叩かれていたこともあり、たちまち社員たちに取り囲まれて社長の居場所を教えろと詰め寄られる。

しかし、彼が知らないことが分かると、今度は、社長秘書の「花兵」こと花輪兵子(淡島千景)を捜しはじめる。

その花兵は、何と会社の屋上で水着姿になり日向ボッコ。

彼女を発見して好奇の目で見つめる社員たちに、「軽犯罪法違反」とばかりに、花兵がビルの屋上から下の道を歩いていた警察官を呼ぼうとしたため、社員たちはホウホウの態で逃げ去ってしまう。

そんな彼女、かねてより好意を寄せていた犬丸の姿を見つけると、彼をキャバレーで遊び呆けている鬼丸の所へ案内する。ちゃんと、彼女は、社長との連絡場所を知っていたのだ。

鬼丸に出会った犬丸は、東京の生活に付いていけなくなったので、郷里の北海道に帰ることにした。ついては会社を辞めたいと切り出す。

それを聞いた犬丸は、北海道に独り帰れば、以前、自分の手伝いでやってもらった悪事を追求する警察の手が回るかも知れない、それよりも、自分の郷里の伊予に行ってくれないかと鬼丸に頼まれる。

会社に立ち寄った鬼丸は、犬丸に秘密書類なる包みを渡し、これを持って行って保管していろと命じる。

その後、野心家の花兵から自分と組んで仕事をしないか、否、結婚してくれとズバリ切り出された犬丸は、その明け透けさに付いていけないものを感じ、逃げるように四国へ向う。

鬼丸から紹介された相生町の玉松勘左衛門(三島雅夫)の家に到着した犬丸は、挨拶もそこそこに、目の前の屋敷で饅頭大食い競争にチャレンジしている町会議員越智善助(藤原鎌足)の姿を見ることになる。

何でも、さがや新ちゃんなる男(三井弘二)が町内をひとまわり走って戻ってくるまでに、饅頭50個を平らげることができるか勝負しているのだという。田舎は娯楽が少ないので、こうしたことで遊んでいるらしい。

あっけに取られる犬丸を前に、見事50個完食した越智は、玉松から賭け金を受取ると、部屋に通された犬丸の前に、住職をしているという田鍋拙雲(薄田研二)なる人物と共にやって来て、相談事があるので付き合ってくれないかと誘われる。

相生楼なる店に招待された犬丸は、彼らから「四国独立運動」に参加してくれないかと切り出される。
何でも、今までの日本は遠心的考えが元で海外に進出しようとして失敗したが、これからは「球心力」が大切になるに違いない。無限大を求めるのではなく、無限小を求める時代が来る、というのである。

訳が分からぬまま、彼らに付き合うようになった犬丸に対し、玉松は越智らは非常識な人間だから、あまり近づかない方が良いと忠告するのだった。

犬丸を驚かせたことはそれだけではない。

着いたその日、秘密書類を根元に埋めていた桐の大木が、翌朝、きれいさっぱり切り取られていたこと。
慌てて書類を掘り出して、別の場所に隠した犬丸だったが、事情を聞いた玉松は笑っているだけ。
何でも、地元の風習で、木がなくなる事は良くあるのだという。

やがて、町内で選挙が始まり、立候補した青杉派と赤馬派に町内は分裂するが、そんな中、東京の鬼丸から青杉を応援するように電報を受取った犬丸は、反発心から仮病を使って、知らんぷりをすることにする。

そんな犬丸をねぎらうため、越智らは、彼を連れ出して、ピクニックへ出かける。

奇妙なことに、犬丸には、背広姿でカバンを持って来いという。

檜扇(ひおぎ)という山奥の集落へやって来た一行は、めいめい、地元の民家に泊めてもらう事になるが、白条堂八(高堂国典)という家に泊まった犬丸は、その夜、そこの娘、あやめ(桂木洋子)がこっそり布団に潜り込んで来たのに驚く。

その後、鬼丸と花兵が相生町にやって来て、又しても、花兵から迫られた犬丸であったが、もはや、彼の心はあやめの事で一杯だった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

毎日新聞に掲載された獅子文六原作小説の映画化で、宝塚出身の淡島千景の女優デビュー作でもある。

競争に明け暮れる東京の暮らしに付いていけなくなり、故郷の北海道に戻ろうと決心した純朴な青年が、ひょんなことから、全く見知らぬ四国のとある町に行くことになり、そこで摩訶不思議な体験をしていく…という、ちょっと寓話風なお話。

観客も又、出だしから意表をつく展開の連続で、主人公の青年と同じように、キツネに化かされたような、何とも奇妙な人物たちと世界に導かれていく仕掛けになっており、良くある「地方幻想(地方=理想郷)」を、痛烈に皮肉った内容になっている。

とにかく、登場人物たちが全て個性的で面白い。

うさん臭い色好みの悪徳社長を演じている志村喬、男勝りの野心とあけっぴろげの明るさを持っている秘書役の淡島千景、いつもにこやかでつかみ所のない地方の富豪を演じる三島雅夫、さらに怪し気な町民を演じる藤原鎌足、薄田研二、三井弘二トリオなど、全員が存在感があり巧い!

その達者な連中に翻弄される朴訥な青年を演じる佐野周二(関口宏の実父)も又ハマリ役である。

特に、奔放な戦後女性を演じる淡島千景は、デビュー作とは思えないほど生き生きとした演技を見せ、劇中、水着姿や伸びやかな肢体を使って踊りも披露するサービス振り。

対称的に、山奥の住む神秘的な美女として登場するのが桂木洋子。

地元で「突きあい」と呼ばれている闘牛や、鬼牛なる巨大な作り物が登場する地元の祭りなど、愛媛、宇和島辺りに今なお続く風習が登場しているのが興味深い。